小指絡めて





目の前に広がる青い青い海。咲き誇る色とりどりの花。
南に位置するこの国の海は、今まで見てきたどこの海よりも綺麗だった。





自来也と共に修行の旅に出て一年がたつ。
一緒に旅をしているはずの自来也は、取材と称してどかへ(恐らく水着の女の子を覗き見しに) 行ってしまったためナルトはいま一人。

観光客の多い砂浜から離れた岩場から、澄んだ水面に裸足の足を浸す。
極彩色の魚たちがひらりと美しい尾びれをひらめかせて、恐れげもなくナルトのしろい素足にまとわりついた。


とりどりの珊瑚や魚たち、色鮮やかな花、澄みわたった青い海。
この世のものとは思えぬほど、多くの色の洪水。








昔は、アカデミーに通う前は。
火影の屋敷に軟禁されていた頃は、これほど様々な色を知らなかった。




暗い屋敷。

閉めきられた部屋。

色の浅いその部屋が世界の全て。



他の、鮮やかなものがあることすら知らなかったあの頃。



【外】の世界を教えてくれた人。

はじめて、夢のような約束をくれた人。



いつも黒い格好をした優しい黒い瞳と、燃え立つような紅の瞳の二つを持った少年。
たったひとり、その人がナルトに本当の世界というものを教えてくれた。


「これはなぁに?」


その日少年がナルトに持ってきてくれたのは赤い色の花。
ナルトがそうっと触ると、花弁の柔らかな感触が伝わってくる。


「花、というものだよ。この花は南の国に多く咲く花なんだ」


「はな?きれーい」


初めて見る鮮やかな赤い色と可憐な姿に、自然、ナルトの頬が緩む。


「ナルト。いつかこの花がたくさん咲く南の国へ私と行こう。約束だ」


「やく、そく?」


そうして差し出された小指に首を傾げるナルト。
その意味すら知らぬナルトに少年は僅かに表情を歪ませて、それでもナルトの小さな小指と自身の小指を絡めた。



「こうして小指を絡ませて誓うんだ。成された約束は、必ず果たされる。そこには綺麗な海もあるんだよ。一緒に行こう」


「……うん」




今でもナルトはその時の約束を忘れてはいない。

約束した南の国に、今、ナルトは一人佇む。



強い風が吹き、水面にひらりひらりと花びらが舞い落ちる。
あの時、彼が持ってきた花びらと同じ色も。


泣きそうになった。

彼は、覚えてくれているだろうか。





「イタチ……」





そっと彼の名を呟く。


自らの一族を滅ぼし、里から姿を消したイタチは、数年の後、敵として。ナルトの身を狙うものとして現れた。



どれほど驚いたか。
何故、と問いたくてもその時間すらなくて。





(会いたい……会いたいよ、イタチ)





小指に誓った約束は、果たされるのではなかったのだろうか。



綺麗な綺麗なこの海は、貴方と見たかったのに。







ひとりにしないで
 

+++++++++++++++
暁様が素敵な企画をしていたので掻っ攫っちゃいましたv
ナルいのやコロラルやザンツナやスクツナも捨てがたかったけど・・・。
イタチを想う一途なナルトが素敵ですvV

07/08/14 夜烏 白羽

 

 

   ◎書物へ戻る