支配の王錫を持つ人


自らを取り巻く世界というものはなんてつまらないものなのだろうと、見下した世界がまだほんの一部にしかすぎないことを知らなかったシカマルは、この世界で生きていくということに軽い絶望すら感じていた。

代わり映えのしない、変化の片鱗すら感じさせなかったシカマルの日常は、『彼』と出会うことでやっと色鮮やかに目覚めたのであった。






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その知能と身体能力をかわれ、シカマルはアカデミー入学以前に暗部へと入隊した。

里のエリートが集まるという暗部。


その場所ならば、この退屈で代わり映えのしない日常から抜け出せる…そんな望みは、刺激的な任務、難解な暗号など、はじめのうちは叶えられた。


代わりに、大人たちの醜い一面をありありと見せ付けられる事となったけれど。



はじめ、子どもに何が出来ると軽んじていた先輩暗部たち。
でも、シカマルが頭角を表すにつれ、軽視は嫉妬に、嫉妬は媚に。
裏では順調に上へ上がっていくシカマルをやっかみ、シカマルの前では一様にこびへつらう。




(嫌な生き物だ)



気付かないとでも思っているのか。
馬鹿みたいに機嫌をとって裏ではいいように利用しようと考えているんだろ?




汚い世界。


結局、どこも同じか。



こんなつまらない世界で、やることなんてなにもない。

ああ。


早々に幕を下ろしてしまおうか。




その頃にはシカマルは一個中隊をまかせられるまでになっており、このまま上へといくか配属を変えるかの選択を迫られていた。
シカマルがとったのは、配属替えの方。


理由はない。

単なる気まぐれの選択だったけれど、その選択が後のシカマルの生き方を根底から変えてしまうなんて、この時は考えもしなかった。




****






新たに配属されたチームは暗部第一班。
若手ばかりの集まりながら、現在最も力をつけているチームという噂だ。


だとしても他と、いままでの人間たちとなにが違うというのか。
どうせたいしたことはない……欠片の期待も持っていなかったシカマルが、完膚無きまでに叩き落とされたのは、彼らと任務をこなしてすぐのこと。






「なーんだ。木の葉きっての才児だって噂だけど。まだまだじゃねーか」



一班でしばらくシカマルとペアを組むことになった長身の青年の台詞。
紛れもない事実なので、なにも言い返せなかった。



一班全員でかかった任務。シカマルはその実力を図るためか班長と同じ前線に立たされたのだ。




そこで味わったのは、屈辱。

まず今までと任務のレベルが違う。

一班のメンバーと自分とでは、実力に開きがある。


言い訳なんてしない。

自分の弱さを痛いほど知った。
足手まといでしかなかった自分。

こんなに強い人間たちが存在したのか!



悔しい、悔しい。


ああでも、どこか楽しい、嬉しい。




傲っていた自分。
敵わない相手。
シカマルの予測を全て裏切る人間。
シカマルをなんの贔屓もせず対等に扱う。
当たり前のことなのに、ほんの少し、この世界と言うものに色を感じた。




「………お前は」



任務も終り、他の班員も散る中、夜明け近い森に残るよう命じられたシカマル。
森の端、遠く連なる山並みが見渡せる大木に彼の人は待っていた。



白み始めた空をバックに、『彼』、一班班長はシカマルに声をかける。



わずかに甘く、凛とした少年の声。

その声の持つ力にシカマルはふるりと身を震わせる。

その声はまるで閉塞したシカマルの小さな世界に切り込んだ白刃。




「お前は、まだ、何も知らない。美しいもの、尊きもの、広き世界の全て」



すぅ、と『彼』のシカマルよりも華奢な掌が、虚空へと伸ばされる。

その指先には、今まさに世界を照らさんとする黄金の朝日。



山肌を伝い、長く光が伸びていく様は、『彼』の掌が一振りの王錫を手にしているようである。


不意に外された『彼』の面。


こぼれ落ちる金色。

貴石のように煌めく青玉が、シカマルの漆黒を射抜いた。





「着いて来い。俺がみせてやる」



(オレは…この方に、支配される)

まるで『彼』に会うために産まれてきたかのような有り得ない錯覚。

『彼』の言葉に存在に、隅々まで見透かされ支配される。



妙に心地いい感覚に、全てを預けてしまおうかと思わせる。
圧倒的な『彼』。



生涯をかけてこの身と力を捧げるようになるのは、もうしばらく後の事。




支配の王錫を手にする『彼』の名を、うずまきナルトといった。




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素敵なナルトとシカマルですv
年末年始企画をしていた暁様のところから頂いちゃいました!

ナルトが輝いています!!!

08/01/15 夜烏 白羽

 

 

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