「……三代目、本当に宜しいのですか?」
「構わぬ。あやつはワシの生徒だ。ワシ自身で決着をつける!」
「……分かりました」
不吉な三日月浮かぶ夜闇に、風のように舞い込んできた情報は、そのまま風に流されたかのように闇夜に消えていった。
【仮面の下の素顔】
「……先生、もう限界なんじゃない?」
「まだまだ若い者には負けん!」
木の葉隠れで催された中忍試験本選の途中に突如始まった木の葉崩し。
かつて木の葉の三忍と呼ばれた大蛇丸の猛襲に、事前に情報を得ていた木の葉の忍達も不意を突かれたように対応が遅かった。
よって、大蛇丸の計画通りに事が
進み、師弟対決が本選会場の屋根の上で多くの上忍や特別上忍達の視線に晒されながら激戦を交わしていた。
「そう。流石は火影といったところかしら。でも、身体が悲鳴をあげてるみたいよっ!」
「むぅ・・!」
禁術レベルの応酬が続き、間断なく続けられる攻防によって三代目火影と大蛇丸の戦闘の場は視界の悪いものとなった。
「ほらほらぁ! 早く当たって下さいよぉ!」
「ぐぅっ」
『火影様!?』
初代火影と二代目火影を使った大蛇丸の連携攻撃が、三代目火影の体力とチャクラをかなりの速さで消耗させる。それを、結界に阻まれ駆けつけることすら出来ずにいる暗部の者達の目前で繰り広げられる。
普通、火影が、里が狙われているという情報が入っていたのであれば暗部達は警戒網を最高レベルで張る。
だが、それは組織として正常に起動していればの話であって、どこかに不都合が生じれば必ず見落としが生じるのだ。
「くそっ! こんな時に、どうして総隊長と総副隊長が不在なんだ!?」
「そんなことを言っている場合かっ! 今は無い戦力に縋るよりも有る戦力で火影様をお助けするんだ!!」
「ああ!」
三代目火影の懐刀とも呼ばれ、裏の世界で畏怖されている生きる伝説と化している現暗殺戦術特殊部隊総隊長と総副隊長はちょうど木の葉が襲われる前、ちょうど中忍試験が行われる少し前から行方をくらましていた。
もちろん、三代目に長期で休暇を頂戴すると一言断りもあり、その間の仕事は出来る者へと分配され、どうしても手に負えないものは火影を通して二人に送られていた。
「この騒ぎだ。お二人も直ぐに駆けつけてくれる!」
「……里外に出ていないことを祈ろう!」
四人衆と呼ばれた者達が織り成す結界へと、外側から幾度も術を放つ。しかし、結界に変化は微塵も見られない。
どんな術を当ててみても、結界は揺るがない。しかもその結界の中で三代目が傷付いていく姿に焦りが生まれる。
「そぉら、年寄りは退場の時間よ!」
『!』
初代の放つ木遁忍術に足を取られ、大蛇丸が口元を高く吊り上げ、狙いを定める。
誰もが、次の瞬間に起こりうる衝撃に身構えた。
「・・なっ」
「……確かに。年寄りは早々に退場願おうか、大蛇丸」
「・・?! お、ぬし……零、か?」
種類は違えど、その場にいた者は皆、驚愕を露わにしていた。
「三代目、命に別状はありませんね」
「う、うむ。これくらい、どうってことはないが……どうして、」
「私が後押しさせて頂きました」
「! 朱影。お主まで……」
狙い通りに放たれた攻撃が、目標に到達する前に掻き消された。まるで、その存在が元々なかったかのように。
そして、それを行ったのがどう見ても小柄だが、突如として結界の中に、三代目を護るように姿を現した二人組だということを認識するのに時間を要した。
「零に朱影ですって? そんなっ暗部の総隊長と総副隊長は木の葉にいないはずよ!?」
呟かれた乱入者の名前に、襲撃者である大蛇丸は狼狽した。
叫ぶように発せられた言葉には、事前に暗部総隊長と総副隊長が不在だと調べ、邪魔が入らないと踏んでの行動だったのだという焦りが含まれていた。
「お前が三代目を狙っていると分かっていて俺達が見逃すと思っていたのか?」
「甘いですね。伝説の三忍とも呼ばれる方がそんなに浅慮だとは」
「くっ! ……言ってくれるじゃない? 坊や達」
大陸中でその名を知られている三忍を目の前にして、平然と毒づく二人組に、馬鹿にされっぱなしでは面子が丸つぶれとなりかねない。
悠然と構えている者達は、子供。いくら小柄といってもあの体格では大人とは言えない。
「へぇ、木の葉の暗部総隊長と総副隊長は年若いって聞いていたけども、そんなに若いと思わなかったわ〜」
「……見た目に惑わされると、痛い目をみるぞ。大蛇丸」
「それはどうかしら? 大人と子供じゃ力が違うわよ、先生」
「それでは、やってみますか?」
「そうねぇ……でも、正攻法でやるわけないわよねぇ!」
『!』
もちろん、名が知れ渡っている力量は伊達ではない。
二人の見た目に余裕を取り戻したように見せかけてはいたが、その実、しっかりと対策を練っていたらしい。三対一で交わされていた会話を途切れさせた瞬間、初代の木遁忍術が三代目を捕らえた。
「……すまん、零。朱影。不覚じゃ」
「ふふっだから言ったじゃない。老体にはガタがきてるわよって」
その場に根を下した巨木に埋め込まれるかのように捕らわれた三代目は、自分のせいで折角危険を冒してまで自分を助けに来てくれた二人の足手まといとなってしまった。
「さぁて。……どうするべきか、分かってるわよねぇ?」
『……』
「そうそう。そのまま暫く大人しくしてて頂戴ね」
こちらの弱点を敵に押さえられてしまえば、向こう側の要求を呑める限り呑むしかない。
沈黙をもって、大人しくしていれば、三代目を捕らわれている木が二人をも捕らえる。
「この場は仕方ないから、退却するわ。……ただし、懐刀と呼ばれる貴方達の顔を見せてもらってから、にしましょうか」
「なっ!? 何を考えておる! 大蛇丸!!」
「だって、暗部の総隊長がこんなに若いなんて思わなかったんですもの。実力があって、まだ年若い。これに顔が私好みだったりなんかしたら呪印をつける絶好の機会じゃない!」
恍惚とした表情を浮かべ、蛇のように長い舌で舌なめずりをする。それに強く反応したのは、言われた当人達ではなく、三代目であった。
「そ、そんなことはさせん! 零、朱影! ワシのことは構ってくれるな、逃げるんじゃ! これは命令じゃぞ!!」
「その命令は聞けません」
「だ、そうなので私もお断りいたします」
二人を心配しての、本心からの叫びであったのだが、即答された事に言葉がなくなってしまう。朱影など、零の一言に自分の判断を委ねきっている。
「じゃ、遠慮なく取らせてもらうわね?」
嬉々とした表情で、四肢を捕らえられている零と朱影へと近付く。
幾分、距離的に近かったことと、やはりお楽しみは後に取っておくという性格から朱影の仮面へと先に手が伸ばされた。
『!』
「あ、なた、確かさっき試合に出ていた……」
「おや? ちゃんと試合も観戦していたのですか?」
あっさりと取り払われた仮面の下から出てきたのは、つい先程まで見事な策士ぶりを発揮していた下忍だった。
火影も現われた横顔にまたも言葉を失った。
二人の様子を見て、皮肉るように朱影ことシカマルは口元を吊り上げて言葉を発した。もちろん、大蛇丸に揶揄しているのだ。試合が始まってからずっと、我慢し続けていたのだろう、と。
「・・もちろんよ。使えそうな若い子は引き抜かせてもらおうと思っていたもの。どう? 私の里にこない?」
「だ、駄目じゃ! そんなことはこの命に代えても許さん!!」
「三代目、勝手に命に代えないで下さい」
「そうよねぇ。折角火影すらも知らなかった仮面の下を披露してくれたこの子達の決心を無駄にしちゃ駄目よ、先生」
激怒と呆れ、そして愉悦という感情が絡み合う中、ただ静かに傍観していた零から先を促す声があがった。
どうやら、早くこの状況を解決して里の片付けに移りたいらしい。
現実的且つ利己的な考えではあるものの、実はこの場で全ての権限を行使できるのは零であろう。零が本気で抵抗すれば大蛇丸とて怪我ではすまないことは分かりきっているし、朱影であったシカマルも零に加勢することも目に見えている。
「随分、せっかちなのね?」
「現実主義と言って欲しいな。俺達は茶番にいつまでも付き合っているほど暇じゃないんだ」
「分かったわ。じゃ、さっさと零君の素顔を拝ませてもらって引き上げるわ」
これまで、三代目と朱影以外に触られたことのない仮面へと伸ばされた手が、ゆっくりと仮面を取り払っていく。
仮面を外したことで、横に流れていた前髪がサラリと瞼の上にかかる。緊急だったと言っても、髪の色を変えていたのだろう。閉じられた瞳がうっすらと開いたことで、確信する。
「うずまき、なると・・?」
ポツリと呟かれた言葉に、肯定も否定もせずに視線をシカマルへと移す。そんな仕草一つ取っても、とてもじゃないが数時間前に戦っていた人物と同一人物だとは信じがたかった。
「シカ、やれるな?」
「もち。お前も大丈夫なんだろ?」
「ああ」
だが、いつまでも呆気に取られている訳にはいかなかった。
二人が衝撃で呆然としている間に、何事か言葉を交わした後直ぐに四肢を捕らえていた木々を一瞬にして灰にして自由の身となってしまったのだ。
「ちょ、なにを」
「お前の条件は俺達の素顔を見ることだったはずだ。ならばもうその条件は満たした。次はお前が俺達の出した条件を満たす番だ」
「安心しろよ。ちゃんと今回は逃がしてやっからよ」
突然の行動に臨時体勢を取るも、そんな行動を嘲笑うかのように突きつけられるのは早くこの場を立ち去れ、でなければ殺すと言う無言の圧力。
一足飛びに後方へと距離をとり、結界を張っている部下達へと声を上げる。
「お言葉に甘えて、帰らせてもらうわ。撤退よっ!」
順調にいっているように見えていた計画を途中で中止した大蛇丸に質問が飛び交っているようだったが、そんなこと木の葉陣営であるこちらには関係のないこと。
「……終わったな」
「……どうする? 今度奇襲かけるか?」
「いや、必要ないだ」
「ナルトッ!」
「……何か? 三代目」
既に後姿すら視認できないほど離れていった奇襲者達の気配を辿りながら、今後報復に向かうかどうか、意見交換を始める。
しかし、状況に取り残されるかのように突っ立っていた三代目が我に返り、二人の会話を遮った。
「本当に、ナルトなのか・・?」
「髪の変化も解きましょうか?」
衝撃のあまり、気を失うのではないかと思えるほど顔色をなくした三代目に苦笑で答える零ことナルトの表情は困っているような、悲しんでいるような、複雑なものだった。
それを横で見ていたシカマルがナルトを庇うように前に出て、言った。
「三代目。疑いたいのも分かりますが、俺達は暗部であり下忍です。ナルトが本人だというのは俺が保障します」
暗に、九尾の力が暴走している訳でも、封印が綻びている訳でもないから安心して欲しいという、シカマルの意図に気付いたのかどうかは分からないが、三代目は泣き崩れた。
「零と朱影は、ナル・・トとシカマル、なんじゃな?」
「はい」
「これ、まで・・ワシがたくさんの任務を課してきたのも、お主達だというのか……」
孫のように、家族のように慈しんできたはずの子供達が、いつの間にか里の中心部、一番忍として重い任務を一重に担っていたかと思うと遣る瀬無い。
しかも、彼等の本来の姿に気付かず、たくさんの重荷を早々に担わせてきてしまった己を憎く思う。
「……火影のじーちゃん。俺達は、別に気にしてないってばよ?」
「そうっすよ。俺達が望んで暗部に入隊したんだ。火影様が責任感じるこたぁないっす」
目線を合わせるように、片膝で礼をとるような仕草をとりつつも、三代目にかけられた優しい声は三代目が慈しんできた二人のものだった。
「ほら、皆じーちゃんの安否を気にしてるってばよ」
「今は士気があがってるんで、指示を出すにはもってこいですよ」
「……うむ。どうじゃったな。今は、里のことを優先しても、良いかの?」
「もちろんです。私達のことなど、いつでも話せますよ。三代目は、生きていらっしゃるんですから」
「そうです。折角零様と私が危険を冒してまで助けたんですから、大事にしてくださいよ?」
この際、どちらが彼等の本当かなんて知るのは今じゃなくても良い。今は彼等が護ってくれたこの命を使って、この子達の里を守ろう。
聞きたい事も、言いたい事もたくさんある。けれども、今は時間がない。
「二人とも、」
『はい?』
「ありがとう。そして、これからもよろしく頼むぞ」
『御意』
気持ち良いくらいに揃って返ってくる返事に、そんな場合ではないと分かっていても自然と笑みが浮かぶ。
――芽吹いた木の葉の成長は、早いものじゃな
End
〜後書き〜
すんません!書きたいトコロが多過ぎてどんどん書いてしまって…しかも書けば書くほどキリリクにあったシリアスから離れてギャグに向かいそうになって大変だったぜぃ(ふぅ)
長らくかかってしまい申し訳ありません!何かありましたらお申し付け下さい!!
+++++++++++++++
53535hitのキリリクで流星の天海まい様から頂いちゃいましたv
趣味でまくりのリクに素敵に答えてくれた天海様はもう、神!
頂いてから掲載するまでのタイムラグが本当に申し訳ないです・・・。
天海様の素敵サイトはLinksから行けますよーv
08/03/18 夜烏白羽
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