睡蓮
近くで小川の音が聞こえる。
清んだ水音は清らかで、穢れを知らぬよう。
しかし、二人が立つのは凄惨な殺戮現場。
深い森には血肉が散らばり、真っ赤に染めあげられている。
血溜りの中立ち尽くす少年二人は木の葉の暗部。
火影より下されたのは抜け忍の始末であり、今それを終えたところだ。
「帰るぞ、シカマル」
「はい」
闇の中にあって、輝きを失わぬ金を纏うのは、うずまきナルト。
普段の彼らしからぬ冴えた雰囲気を放つが、それが本来の彼の姿。
ナルトの影となりつき従うのが、今も隣にいる黒いろ。シカマル。
この荒れた場所の処理は後からくる別機関がやってくれる。
二人は連れだって帰路についた。
ふと、足を止めるナルト。
続いてシカマルも止まる。
ナルトが見ていたのは、穏やかな流れの中咲き誇る純白の睡蓮。
ぼんやりと輝いて見える美しい華に、ナルトはそっと指を伸ばした。
柔らかな花弁に触れる直前。
弾かれたように腕を引き戻した。
「どうした?ナルト」
じっと掌を見つめるナルト。
一体どうしたというのか。
「触ったら、花が汚れる」
ナルトの掌は、先程の名残かべとりと血で染まっている。
「なら、洗えばいいだろ?水もあるし」
「そうだな。この水で、汚れた手を洗い流すのは簡単なこと。そのかわりにこの清い流れが汚れる事になる。その水を糧に生きるこの花も。同じことだ」
立ち上がったナルトはシカマルに顔を向け、微かに笑ったように見えた。
泣きそうな、哀しい笑み。
「俺は、もう清らかなものを汚すことしか出来ないかもしれないな。美しい睡蓮に、触れる権利すら、ないかもしれない」
そんなことはない、そう綴ろうとしたけれど慌てて言葉を飲み込む。
所詮発作的な言葉など、一時の慰めにしかならない。
はらり、と水面に落ちた一枚の花びらがくるくると回りながら下流へと流されて行く。
それを目で追いながら、ぽつりとナルト呟いた。
「俺は、何処に行けるのだろう。あの里に、繋がれて……」
「……………っ!」
シカマルはぎゅっと拳を握り締める。
木の葉の里は、ナルトが逃げられないように【仲間】を与え家を与え代償として服従を強いた。
もし、逆らうのならば仲間達を殺すぞと脅して。
まるで使い勝手のいい道具のように。危険な任務につかせ何度も何度も血で汚れ。
理不尽な要求に拒絶することを許さない。
休まることが、なかったはず。
そんなナルトを、少しでも救えれば………それは過ぎた願いだろうか。
この水の行き着く先は静かな海。
果てなく広がる広い青に、休まることを知らぬ彼の静寂を夢見た。
もしかしたらオレも
貴方を繋ぐ鎖、なのでしょうか
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暁様が素敵な企画をしていたので掻っ攫っちゃいましたv
ナルいのやコロラルやザンツナやスクツナも捨てがたかったけど・・・。
このシカとナルの掛け合いが素敵ですvV07/08/14 夜烏 白羽