昔、
俺には幼馴染がいた。
俺と似ているようで違う、
そんな色彩を持つ、女の子。
「サッスケくーん!」
そいつは語尾にハートでも付きそうな勢いで、サスケに抱きつくという名のタックルをかました。
その拍子に淡い白金色の髪が揺れる。
思わず手を伸ばしたくなる衝動を、俺は無理矢理抑えた。
「ちょっと〜!サスケ君から離れなさい!!」
すかさずサクラが二人の間に割ってはいる。
そんなサクラを見て、ベェっと舌を出して楽しそうに笑う。
その笑顔の先にいるのは俺じゃない。
たったそれだけの事なのに、醜い感情が湧き出す。
「あーーーっ!サスケ馬鹿女!!何でこんなところにいるんだってばよ!?」
感情を押し殺して、ドベの仮面を被って、
俺は『うずまきナルト』らしく騒いだ。
そんな俺をムッとしたように睨み付ける。
ただ、それも少しの間だけで、
「何よぉ!サスケ君がいるんだからあたりまえよ!!邪魔しないでよねぇ!!!」
そう怒鳴って、視線を外した。
たった少しの時間だけ、俺に視線を向けた。
それだけのことなのに、酷く嬉しく想う。
―――ヤバい、な。
「サックラちゃぁん!サスケなんか放って置いて俺と一緒にラーメンに 「邪魔よナルト!!」
俺はすかさず入ったサクラの怒声に、
暗雲を背負いながらしょげる。(勿論演技だ。)
そしてそのまま諦めたように背を向けた。
落ち込みながら俺は二人の視界に入らないところまで行ってから、
影分身と入れ替わり走り出した。
走って、
走って、
走って、
そして森の中の、小さな泉に辿り着いた。
ここは、俺とあいつが小さい頃に遊んだ場所。
そして、あいつとの別れを告げた場所。
「ハッ、女々しいな・・・。」
俺は自嘲気味に笑い飛ばす。
泉は太陽を反射して、
キラキラと輝き、
木々は風に揺れ、
花たちは綺麗に咲き誇る。
あの頃と、何も変わらない。
俺はそれらを視界から消すように、
そっと目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、
あの頃の、あいつ―――いのとの記憶。
+++++
八年前、俺といのはいつものようにこの場所へと遊びに来ていた。
里の中心部から離れたこの場所は誰もおらず、
そして珍しい花が群生していることから、ここは俺達のお気に入りの場所だった。
大人達に邪魔されず、
監視されない。
そんな二人だけの場所。
でも、あの日。
俺を狙った他国の忍が、いのを傷つけた。
俺を庇い、腕から血を流す姿を見て、
俺の中のナニカが切れた。
気が付けば、敵国の忍は人の形をしておらず、
返り血を浴びた俺と、怯えたいのがこの場に立っていた。
俺は悟った。
―――もう、一緒にはいられない。
そうだ、よく考えればわかることだった。
わざわざ、『器』である俺なんかと一緒にいる必要はない。
俺と一緒にいたことで、いのまで危険な目にあう必要など、
まして傷つく必要など、
ありはしないのだ。
俺は血に塗れた体で印を組んで、
何かを叫ぼうとしたいのに、忘却の術をかけた―――。
+++++
あの時、何を叫ぼうとしたのだろうか。
それは今になっては確かめようの無いことで、
俺自身、知りたいなんて思わない。
―――だってそうだろう?
俺に対する拒絶の言葉なんて、いのの口から聞きたくなかった。
いのの記憶を消したのは、結局のところ俺の自己満足なんだ。
血に塗れた俺を見て欲しくない。
そんな俺を見て拒絶して欲しくない。
俺のせいで傷ついて欲しくない。
俺に、恋しがる権利などないのだ。
いのには幸せでいてほしい。
その為には今のまま、
記憶を失ったままが一番良い。
傍にいるのは、チームメイトのシカマルとチョージ、
親友のサクラと、アイツの想い人のサスケ。
『うずまきナルト』との接点なんてほとんど無い。
―――それでいいじゃないか。
日増しに強くなっていく、
いのへの想いを、
心の奥底に、
覆い隠して。
俺には幼馴染がいた。
大切な、
大切な、
最愛の人。
あの日々も、思い出も、想いも、ずっと俺だけの中に。
+++++あとがき++++++++++
背景花言葉は「白い追憶」。
前々から書いてみたかった記憶消去話。
切ない系で書きたかったのに、なのに・・・!
切 な く な い ! (泣
これ、実は白羽の頭の中にいの視点でのネタがあります。
要望があったら書こうかなぁ・・・と思ってたり。07/09/14 夜烏 白羽