昔、
いつも一緒にいた大切な人。
大切なのに、大好きなのに、
わたしは彼を想い出せない。
―――わたしには幼い頃の記憶が無い。
誤解しないでいただきたいが、それは記憶障害とかモノゴコロ付く前だからとかではなく、
正確に言えば、わたしは幼い頃良く遊んでいた『ある人物』の記憶が無い。
わかるのは、『彼』がとても『大切な人』だということ。
途切れ途切れで、白い靄に覆われた記憶の中、
ぼんやりと覚えているのは、『彼』はとても強い忍だという事、
そして、わたしと同じくらいの人影だけだった。
―――だって『彼』はいつもわたしを護ってくれた。・・・様な気がする。
いつもわたしをその同じくらいの小さな背で庇って、わたしを護ってくれていた。
その背中が、とても大きく温かかったのを覚えている。
同世代、そして強い忍。
今は何でか忘れてしまっている、そのわたしの『大切な人』の条件に当てはまるのは・・・、
「サッスケくーん!」
―――『うちはサスケ』、彼だけだった。
だってサスケ君は強いのよ!アカデミーをトップで卒業したルーキーNo.1の実力者!!
それにクールで同世代の中で一番かっこいいの!!!
―――彼が、『彼』。
わたしはそう信じていた。
「ちょっと〜!サスケ君から離れなさい!!」
任務帰り、見つけたそのクールな背中にわたしが迷わず抱きついた。
そんなわたしを幼馴染兼恋敵のサクラ(通称デコリーン)が邪魔する。
わたしはベェっと舌を出して勝ち誇った笑みを浮かべ、サスケ君に抱きついた。
・・・その時、
「あーーーっ!サスケ馬鹿女!!何でこんなところにいるんだってばよ!?」
目に入った、眩しい黄金色。
『うずまきナルト』。
こいつはいつもわたしを『サスケ馬鹿女』と呼ぶ。
わたしの覚えている限りでは一度だって名前で呼んだことは無かった。
―――こいつは嫌いだ。
だって、こいつの髪や瞳の色は、わたしなんかと比べて断然綺麗だ。
眩しく思う黄金色の髪、
ハッキリとした海のような蒼い瞳。
アカデミー入学当初、似たような色彩だったから直ぐに目に入ったのを覚えている。
そのサスケ君とは正反対の騒がしくてウザったい性格も、
いちいちサスケ君に突っかかるとこも、
忍の癖に落ちこぼれなとこも、
わたしより綺麗な色彩も、
サクラに色目を使うとこも、
絶対にわたしを名前で呼ばないとこも、
―――皆々、ダイッキライ!!!
わたしはナルトを思いっきり睨みつける。
「何よぉ!サスケ君がいるんだからあたりまえよ!!邪魔しないでよねぇ!!!」
そう怒鳴って、視線を外した。
すると今度はサクラに突っかかる。
「サックラちゃぁん!サスケなんか放って置いて俺と一緒にラーメンに 「邪魔よナルト!!」
そしてすかさず入ったサクラの怒声に、ナルトは暗雲を背負いながらしょげた。
―――・・・何よ。
わたしが怒鳴った時は、そんなにしょげなかったくせに。
わたしの時は名前で呼ばなかったくせに。
わたしの時は・・・、
そこまで考えて、わたしはハッと我に返った。
見るともうナルトはもういない。
―――帰ったのか。
心の中に燻る、
どうしようもない消失感。
果てない淋しさ。
そのままわたしは気分が乗らず、
サクラと適当にサスケ君の取り合いをしてから、すぐに家路に着いた。
+++++
家に帰って、ただいまも言わずに自分の部屋に引きこもる。
下からパパが何か言ってたけど、聞こえないフリ。
―――誰なの?
頭から布団を被って目を閉じる。
反復するのは収まりきらない疑問。
『彼』は誰?
『彼』はサスケ君。
だってサスケ君は強い。
それにかっこいい。
でも、サスケ君の背中は何かが違った。
確かにわたしと比べて大きな背中だ。
・・・そりゃそうだ、だって男の子だもん。
それに温かい。
・・・人間体温持ってなきゃ可笑しいし。
―――違う。
『彼』の背中は確かに大きくて温かかった。
でもそういう意味ではない。
頭グルグル、思考グチャグチャ。
サスケ君が『彼』と結論付けてから、こんな状態には何度も陥った。
でも『彼』がサスケ君じゃないと仮定して、他に誰がいる?
・・・わからない。サスケ君しかいない。
ホ ン ト ウ ニ ?
『彼』は、一体誰?
混乱からか、
困惑からか、
はたまた別の想いからか、
わからないけど、
わたしの頬に涙が流れた。
思い出すことが出来ない。
大切な、
大切な、
彼の記憶。
このモヤモヤした想い、頭の何処かで、狂おしい程求め続ける。
+++++あとがき++++++++++
背景花言葉は「白い追憶」。
前に書いた『胸にはいつでも思い出を』のいの視点。
・・・スランプ気味。思った通りに書けない。OTL
いのも本当は気付いてないだけで、ナルトのことを想ってるんだよーって話。
でも思い出の中のナルトとサスケを勘違いしてるだけなんです。
ナルいのアンケ一位記念にシリーズ化します。07/10/28 夜烏 白羽