あの日々には戻れない
アイツの隣に俺はいない

それでもお前は
俺が護るから







「ナルト、そこの本とって」
「これだってば?」
「違う、その横の本」

とある屋敷の書庫の中、俺といのは黙々と本の整理をしていた。
事の始まりは数時間前に遡る。





いつも通りに数時間単位で遅刻してきた自分の担当上忍に文句を言いながら、
心の中で「忍不足だしこの馬鹿をとことん使ってやるか・・・。」と半分職権乱用な事を考えていた時、
フワリと、風が吹いた。

「遅ぇーぞカカシ、集合時間とっくに過ぎてるぞ」
「めんどくせー・・・」
「シカマルっていっつもそればっかだね」

カカシが現れた反対の道からのんびりと歩いてくる人影、
そして、

「サスケくーん、おっはよー!あ、こんにちはかしら?」

目の前を過ぎて、サスケに抱きつく夏のように澄んだヒト。
愛しい存在。

「あら、デコリーンじゃない。何か用かしら?」
「黙れいのぶた!サスケ君から離れなさい!!」

いつもの掛け合いを始める二人のくノ一を慣れたように受け流し、煙草を咥えたままアスマは今回の任務について説明した。
つまり要約すると、任務内容は「とある屋敷の片付け」。いつも通りの雑用任務。
だが問題なのはその広さ。依頼内容ではどうしても今日中に片付け終わらなければならないらしい。普通に三、四人では無理な話だ。
・・・そんな大変な任務の時に遅刻してきた、しかも合同だと教えてくれなかったカカシを三人で睨む。
カカシは気にせずに(絶対SSランク任務押し付けてやる!)ツーマンセルに分かれて任務を行うと説明してきた。
問題発生。いのとサクラだ。
二人してサスケと組みたがり、ますます加熱する二人の争い。
俺は表面的には「サクラちゃぁん・・・」と項垂れていたが、内心舌打ちしたい気持ちでいっぱいだった。

話を戻そう。

その後、二人の争いが収拾付かなくなり、
結局くじ引きで決めて俺といのがペア、担当は屋敷の離れにある書庫になった。




最初は「サクラちゃんと一緒が良い!」と(あくまで表面的に)駄々を捏ねていた俺だが、
「わたしだってサスケ君と一緒がよかったわよ!」といのに怒鳴られ、今は大人しく片付けをしている。

チラリと、いのを盗み見る。(バレる筈が無い。腐っても俺は暗部総隊長だから。)
相変わらず、綺麗な髪をしている。
綺麗に結い上げられたその髪は、サスケが長い髪の娘が好みという噂から伸ばされ整えられた。
サスケの為に。
俺はいのから目を離し手元の埃を払う。

自分で選んだ道を、後悔していない。

思い出だけで充分、沢山の幸せを貰ったのだから。
だから、俺は―――

「・・・・・・・・・、」

俺は手に持っていた本を置き、立ち上がった。

「・・・ナルト?どうし」

―――ナルト?どうしたの行き成り。
その言葉は紡がれること無く、いのの身体は崩れ落ちる。
倒れる前にソレを受け止め、そっと壁に寄りかからせた。

俺は印を組み暗部服を身に纏う。
・・・同時に、無数の影が現れた。

侵入者。


「暗殺戦術特殊部隊総隊長、零、参る」


殺戮、それが俺に出来る唯一のこと。
里を―――いのを護る事が出来る、唯一の手段。




+++++




「なると、こっちよ!」

そう言って俺の手を引くいの。
楽しそうに掛けて行くいのと、無表情のまま引っ張られていく俺。
「いいところをみつけたんだ!」と笑顔で言ういのに押し切られる形で付いて来てしまった。
これからじっちゃんに報告しなければならないことがあったのに。

「はやくはやく!」

森の中を進んでいくいの。何度か足をとられ俺が支えると、笑顔でお礼を言われた。

「ほら!みてみてなると、すごいでしょ!」

森を抜けた先、ソレはあった。
木々を越えた先、ソレは在った。

様々な草花、誇らしげに咲き誇る。
開けた空、眩しいまでに照らす青空。

輝く水面、全てを受け入れるかのごとく澄んだ湖。

「これは・・・、」
「ね、すごいでしょ!」

いのは両手を広げて、言った。


「ここ、ふたりだけのひみつのばしょにしようね!」




+++++




目の前には敵の屍。
額宛だけとって浄化させる。
書庫を汚さないように精神に術をかけ、殺した。・・・専門ではないが、上手くいってよかった。
俺は軽く息を吐く。
いくら広いとはいえ、狭い室内での戦闘ほど面倒な事は無い。
印を組みいつものドベの服を纏う。
これでよし、いのには軽く幻術でもかけて誤魔化すとするか。
眠らせたいのを起こそうと、いのに手を伸ばした。

何かの力に邪魔されたように、俺の手が止まる。

―――いや、コレは他の意思ではない。自分の意思か。
思わず触れそうになったその柔らかい髪から、白い肌から手を逸らした。

「・・・・・・・・」

色付いたその唇から紡がれるのは俺の名ではなく、あの澄んだ瞳に入る事ができるのは俺の姿ではない。
サスケ、だ。


 い の 


・・・・・・・


「サスケ馬鹿女、起きろってばよッ!!!!!」


俺は思いっきりで叫んでやった。吃驚して飛び起きたいのに、俺は表の仮面を被る。素早く印を組み、幻術をかける。

「あーあ、サスケお馬鹿ってばサボっちゃ駄目だってばよ!偉そうにしておいて自分だけ居眠りしてんじゃないってば!」

俺の言葉が、いのの中に真実として刻み込まれるだろう。
疑問に思うことは、ない。


自分が居眠りしていた事に何の疑問を思わず、いのは片付けを再会させた。
その後姿を見て、そっと目を細める。





いの。

綺麗な君は、そのままでいて。

穢れた俺は君に触れないから。

俺は穢れているけど、君が綺麗でいられるように、護るから。

いの、


最愛の純潔。
俺が全ての穢れを引き受けるから。








+++++あとがき++++++++++
ひ、久しぶりのナルいの。
このシリーズは切ないよ・・・ま、ハッピーエンドかバットエンドかは一応決まってるんだけどさ。
すれ違い。これに対になるいの視点はまたの機会に。
白い追憶シリーズのナルト暗部名は「零」です。存在しない存在。
08/03/17 夜烏白羽

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