彼との日々を想い
薄れる記憶を繋ぎ留め

わたしはずっと
彼を捜し求めてる







夢を見た。


これは夢だ。多分昔の夢。
ぼやけた記憶、白い霞の中の途切れ途切れの記憶。

「−−−、こっちよ!」

小さなわたしはそう言って誰かの手を引いて掛けて行く。
自分の声なのに、聞き取れない。
まるでその部分だけ切り取られたかのように。
わたしが手を引く“誰か”の顔もわからない。
白い霞が邪魔する。

でもわかった。
コレは・・・“彼”との記憶だ。

―――そうだ、パパと散歩してて、石蹴りしながら歩いてたんだ。
だけど蹴った石が草むらの方に転がって行っちゃって、追いかけて森の中に入った。
いつの間にかパパと逸れちゃって、泣きながら森の中を彷徨った。

きっと必然だったんだ。
パパと散歩した事も、
石蹴りした事も、
石が草むらに入っちゃった事も、
追いかけて逸れて迷子になった事も、

“あの場所”を、見つけた事も。

“あの場所”を見つけて、わたしは直ぐに来た道を引き返した。
何故か今度は迷子にならなくて、直ぐに森を抜ける事が出来た。

一直線に走った。彼の元に。

「−−−!」

わたしは彼を見つけて飛びついた。

「いの、何処行ってたんだ。
 いのいちさんが心配してたぞ」
「あのね、いいところをみつけたんだ!」

わたしは彼の話を遮り、彼の手を取った。
戸惑う彼にニッコリと笑いかけ、わたしは走った。

「はやくはやく!」

森の中を進んでいく。何度か足を取られたが、彼が支えてくれた。
何気ない彼の優しさが嬉しくて、「ありがとう」って言うと慌てる彼が面白くて、
自然と笑顔になる。

でも彼は笑ってくれない。
彼は笑っちゃいけないんだって、前に言ってた。
笑い方がわからない。笑うことができない。どうすれば笑えるのか知らない。
彼は誤魔化していたけど、わたしは知ってる。
彼は“大人”の中でとっても嫌われている。
パパやママ、火影様以外の“大人”は、全て彼の敵だった。
里の中、彼はいつも居場所が無かった。

―――・・・だけど、

「ほら!みてみて−−−、すごいでしょ!」

“ココ”なら大丈夫。
二人だけしか知らない、誰も知らない“大人”の居ない場所。
里の何処よりも綺麗で澄んだ場所。

綺麗な草花。確か彼は花が大好きだった。勿論わたしも。
開けた青空。眩しいその色は、彼の色。

キラキラと太陽を反射して輝く湖は、全てを受け入れてくれる気がした。

「これは・・・、」
「ね、すごいでしょ!」

驚く彼を見て、わたしは嬉しくなった。
わたしは両手を広げて、彼に笑いかける。


「ここ、ふたりだけのひみつのばしょにしようね!」




+++++




二人だけの、彼とわたしだけの秘密の場所。
微笑みかけるわたしに、彼は微かに笑った気がした―――。


 い の 

・・・・・・・


―――・・・?
誰かが、わたしを呼んでる。
ダ、れ・・・、“彼”?


「サスケ馬鹿女、起きろってばよッ!!!!!」


わたしは飛び起きた。

吃驚して周りを見渡す。
―――そうだ、今は任務中!
目の前のナルトに起こられる。どうやらいつの間にか寝てたみたいだ。
あーもうッ!任務中に何やってるのよわたしッ!!

今はいつものDランク任務、とある屋敷の書庫の整理中。
いろんな事情が重なって(カカシ先生の遅刻とか!)、サスケ君のいる七班との合同任務。
ツーマンセルでサスケ君とペアになりたかったんだけど、デコリーン(サクラ)の邪魔の性でくじ引になって、そしてナルトとペアになった。
(でもサクラはサスケ君と一緒になってた。デコリーンの癖に!)

わたしは慌てて片付けを再開させた。
ナルトも片づけを始める。

「ナルト、これそっちの本よ」
「ん、わかったってばよ!」
「あ、違くてその横の棚!」
「こっちだってば?」
「そうよ」

・・・さっきも想った事だが、何故かナルトとの作業は苦にならなかった。
ドベで落ち零れで、鬱陶しいはずなのに、そうとは思わなかった。

―――アレ?

何か、心地良い夢を、幸せな夢を見ていた気がする。
アレ、何の夢を見たんだっけ・・・?

白い霞が頭を支配して、
よく、思い出せなかった。



広くは無いけど小さくも無い、結構書物があった書庫は、意外と早く片付いた。

「やっと終わったわーッ!」
「シューリョーだってばよ!!!」

わたしが叫ぶと、ナルトも叫んだ。
何故か楽しくなって、わたしはナルトに笑いかけた。

ナルトも、笑った。


―――――・・・え?


一瞬、ナルトの笑顔が重なった。
いつもの馬鹿面の生意気な笑顔じゃなくて、何処か優しい、静かな笑顔。
ナルトを見ると、もういつもの馬鹿面に戻っていた。
・・・目の錯覚、かしら?

ナルトは「先生に報告だってばよ!」と掛けていった。
わたしも慌てて追いかける。

「待ちなさいナルト、走っちゃ駄目じゃない!」

そう言いながらもわたしも走っていた。


何故か二人の時間は嫌じゃなかった。
心地よかった。





彼は、

わたしの記憶の中でいつも一緒にいてくれる。

でも今は彼は一緒にいなかった。

薄れていく記憶、彼を探していた。

ねぇ、


彼の存在。
探しているの、大切な人を。








+++++あとがき++++++++++
御題2つ目、・・・甘を目指して撃沈。
ほんの少しずつ“真実”に近づいてきた感じ、かな?
でも色々とすれ違い。切なくしようとして失敗した。
早く気付いていの!“彼”はすぐ目の前に居るよ!!
08/03/28 夜烏白羽

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