「ねぇサクラちゃん、今シアワセ?」
「は?」




シアワセの定義




「アンタどうしたのよ行き成り。熱でもあるんじゃないの?」

子守の任務中、ふとナルトの零した言葉にサクラは眉を顰めた。
子供を漸く寝かしつけ終わったサスケもナルトを見る。
未だに子供を寝かしつける事の出来ないナルトは、「シツレイだってば!」と声を落として叫んだ。

「この前イルカ先生と一楽行った時、イルカ先生に前回の子守任務の話をしたんだってば」

前回――とは三日前、とある家の子供を一日面倒見るといういつも通りの雑用任務だった。
その子供はえらく傲慢で我侭でマセた生意気なガキだと言う事を除いて、だが。
サクラとサスケも「ああ、アレか・・・」と遠い目をする。
それだけ強烈で面倒だったのだ。
一日中あっちだこっちだ振り回されて、最後は思わずサスケまでキレたのは記憶に新しい。(勿論ナルトは開始一分でキレた)

「ありえないくらいムカつくガキだった!ってイルカ先生に愚痴ったら、
 イルカ先生が『子供は幸せになるもんだからな!』って言ったんだってば。だから少しぐらいの我侭聞いてやれって。
 んで、今日のガキ見てて思ったんだってば、コイツ等将来シアワセになんのかなーって。
 そしたらさ、サクラちゃん達はどうなのかなーって気になったんだってば!」

「だけどアレは『少しぐらいの我侭』所じゃないってばよ」と遠い目をしてナルトは付け足した。
それを聞いて子供の布団をかけ直しながらサクラは考える。

―――幸せ、か・・・。

「そうなんじゃない?」

興味無さげなサスケと未だ遠い目をしているナルトを見て、少し恥ずかしそうに言った。

「サスケ君がいて、ナルトがいて、遅刻は迷惑ではあるけどカカシ先生もいる。
 いの達がいて皆がいて、
 特に物騒な事も最近聞かないし、火影様がいて里が平和で――うん、結構幸せよね」

頬を染め微笑むサクラに、サスケは「フン!」視線を逸らした。
だが顔を背けていても耳が少しだけ赤く色付いていて、どうも素直になれない複雑な心中のようだ。
それを見抜き(恋する乙女の洞察力を甘く見てはいけない)嬉しそうに小さく笑い声を上げた後、サクラはナルトに向き直った。

「それで、アンタは?」
「ほへ?」

「ナルトは、幸せ?」

純粋な疑問だった。
それと同時に恥ずかしがって意地を張るであろうナルトへの小さな意地悪だった。
何処か恐ろしい笑みを浮かべるサクラを見て、ナルトは少しだけ身を引く。
少し間をおいて、みるみるナルトの顔は赤くなった。(やっと状況を理解したらしい)


「そ、そんなの答えは決まってるってばよ!」


そう半場ヤケクソに答える。
顔を逸らしていてもわかる何処か慌てた様子に、サクラは再び小さく声を出してと笑った。

いつの間にか、子供はナルトの腕の中で眠りについていた。













「んーじゃ、解散!明日遅刻しないようにね」
「「それはこっちの台詞(よ)(だってば)!!!」」
「ウスラトンカチが・・・」


子守も終わり、すっかりと夕暮れに染まった中いつも通りに行われる遣り取り。
サスケがまず始めに背を向け、それをサクラが追いかけ、ナルトがサクラにフラれ落ち込んで帰っていく。
だが、サスケとサクラが帰った後、いつの間にかカカシがいなくなりナルトが最後に残るのが普通なのだが、今日は違った。
カカシがナルトを呼び止める。
怪訝そうに振り返るナルトを見て、カカシはニッコリと微笑んだ。

「ねーナルト、ちょっと質問して良いかな」
「何だってばよ!オレってばいそがしーからさっさと終わらすってば!」

カカシは一瞬戸惑い、それを感じさせないようにまたニッコリと微笑み直すと、言った。


「ナルトは、幸せ?」


間をおき、呆気にとられたナルトは瞬時に顔を赤くする。

「き、聞いてたんだってば!?」
「見守るのも上忍の役目だからね」

「そーゆーのトウチョウっていうんだってば!」と怒鳴るナルトを軽く受け流し、カカシはナルトを見つめる。

「そ、そんなの答えは決まってるってばよ!」
「んー先生はわかんなかったから聞いてるんだけどなー」
「少し考えればわかるってば!」
「先生はハッキリ言ってくれないとわかんないなー」

先程と同じ答えを言っても、カカシは尚も食い下がる。
ナルトは言い逃れできないと悟ったようで、唐突に顔を俯かせた。

「ん?どうしたのナルト」

カカシが覗き込むように再び問いかける。
ナルトはやっと、ゆっくり顔を上げた。

そして―――・・・




 カ カ シ は 目 を 見 開 い た 。




「シアワセ、って言って欲しいの?」



一気に体が硬直し、動かなくなる。否、動けなくなる。
夕暮れが不気味に揺らめく。
先程までとまったく違う雰囲気に息を呑んだ。

「シアワセって俺が言うのを見て、安心したいの?」

ナルトの唇が三日月のような弧を描く。
冷たい氷河のような――嘲笑い。
いつもの太陽のような温かさが無く、まるで人形のような瞳。

「何度も言ってるじゃん。
 少し考えたらわかること、答えなんて決まってるってばよ」

一歩一歩、ゆっくりにカカシに近づく。
足音がその場に響き、支配する。
カカシの瞳にみるみる恐怖がせり上がった。

「シアワセ、だと思う?」

可愛らしく首を傾げる。
愛らしいその様子も、何処か恐怖を感じるだけだった。
冷たい瞳――目が笑っていなかった。
恐怖に掻き立てられ、今すぐこの場から逃げ出したいと体中の全ての細胞が叫びを上げる。
だがそれに反して、まったく命令を聞かない体。
眼を逸らす事さえ出来ない。

ナルトはカカシの肩に手を置き、耳に唇を寄せ、



「シアワセなわけないってばよ、馬ー鹿。」



酷く甘い声で、囁いた。





















辺りは暗く闇に染まり、歪な三日月が夜空に浮かぶ。
帰路に着くカカシを眺めながら、ナルトは目を細めた。

「珍しいな、下手打つなんて」

ナルトの背後に誰かの影が落ちる。
否、誰かなんて考えるまでも無い。
愉快そうなその声色に、ナルトは微笑んだ。

「俺の術が下手だと?」
「いんや、そういう意味じゃねーよ。
 お前の右に出る業師なんていねーからな」

ニッコリと忘却札で口元を隠しながらナルトは振り返る。
黒い外套を身に纏ったその影――シカマルは狐面を付けたままナルトの隣に腰掛けた。

「感情を表に出すなんて、珍しい」

ナルトは寄り添うように肩に首を預けた。

「ムカついてさ、つい」
「の、割には殺気バリバリだったじゃねーか」

ナルトはムッとしたように狐面を睨む。
そしてニッコリと悪戯っ子のように笑った。

「ねぇーシカ、」

ゆっくりと狐面に手をかけ、取り外す。


「シカマルは、シアワセ?」


優しく問いかける。
シカマルは夜空を仰ぐ。
今日も変わらぬ木ノ葉の夜空、歪な月。(まるで俺達のような)

「めんどくせー任務に負われて、外も中もずーっと物騒で、
 死に損ないのウゼェーじじい供がいて、
 阿保みてーに変わんねぇ里人がいて、
 火影のジジイに任務押し付けられて、隣にはナルトがいて―――・・・」

楽しそうにシカマルは笑う。

「ま、俺はお前が隣にいれば地獄だろうが何だろうがシアワセだぜ?」

そう締めくくって。


ナルトは嬉しそうに、何処か寂しそうに微笑んだ。















ねぇーシカ、

俺はシアワセじゃないってばよ。


例えどんなに馬鹿でも阿保でも、表の仲間は嫌いじゃない。(絶対認めないけど!)
俺を育ててくれたじっちゃんがいて、そんでそんで、


大好きなシカマルがいる。


俺はシアワセじゃないってばよ。
シアワセなわけないってばよ。



だって今の状況をシアワセって認めたら、もう耐えられなくなる。



いつか来る別れを受け入れられなくなる。
今の状況が、手放せなくなる。

いつか必ず、壊れる時が来るというのに。







ねぇー、シカ?















シアワセの定義を教えてください
(幸せなんて知らない。あるのは偽りで塗り固められた想いだけ。)







+++++あとがき++++++++++
ノマナルと七班のほのぼの・・・と見せかけてカカナル・・・と見せかけてシカナル。
意味不明駄文。
カカナラーには悪いけど白羽はカカナルにときめきません。
保護者的立場のカカシが好きなんです。
08/02/20 夜烏白羽

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