「ナルトはナルト、でしょ?」

そう言って、サクラは微笑んだ。
不確定な疑問としてではなく、断定された事実として―――。









俺は“人形”だった。感情を持たない“操り人形”。
ただ命令の通りに動き、敵を排除する。殺す。
与えられたのは底知れない闇と血濡られた殺戮―――正直、心地よかった。

誰も信じず、“信じる”という概念すら持たず、“孤独”という概念を持たず、
独りをあたり前とした日常。
ソレが全てで、血塗られた闇を独り動く“人形”。
故に、俺はいつしか“殺戮人形”と呼ばれていた。
不満は無かった。それが当然であり自然な事だった。

変わったのは、いつからだろう?

与えられたのは「旧家や名家の子息の護衛」。今後木ノ葉の里に従属する忍を護る重要任務。
“器”である俺は命令通りに“ドベなうずまきナルト”を演じた。
長期に渡る任務。アカデミーを卒業して終える筈が、とんだ誤算が発生した。

うちはサスケ―――“うちは一族最期の末裔”。
自らの兄を憎み、復讐に身を投じた悲劇の子供。
だが復讐は一歩間違えれば里の大きな“有害”となる。
力を求め、禁忌に走られてはいけない。
何より“うちは一族最期の末裔”、失ってはいけない血系限界という名の“有益”。

護衛任務は引き伸ばされ、果ての目的は“うちは一族最期の末裔”を里の“有害”ではなく“有益”に育て上げる事となった。

子供ならば“洗脳”でどうとでもなるのだ。だが表立って洗脳するわけにもいかない。
ただ里の為、与えられた命令通りに“真っ直ぐな信念を持ったライバル”を演じた。
全ては“うちは一族最期の末裔”の力を伸ばし、里に従属する忍として“洗脳”する為の茶番劇。
“操り人形”はシナリオ通りに動けば良い。
感情を持たず、意思を持たず、命令のみを全てとする。

いつから、変わったのだろう?

命令のみが全てじゃなくなった。演技ではない感情がが溢れ出しはじめた。
下忍班とのくだらないお遊び任務の中、意思を持ち始めてしまった。
気が付いたときにはもう手遅れだった。
それはじわじわと俺の中を侵食していった。
“信じて”しまった。下忍班を―――“仲間”と認めてしまった。
もう耐えられなかった、闇にも殺戮にも孤独にも。
“人形”でいられなくなった。もう“操り人形”にも“殺戮人形”にも戻れない。
底知れない闇も血塗られた殺戮も当然だった孤独も―――あたり前でなくなった。

俺はいつからか、“人形”ではなく“人間”になっていた。









「・・・サスケ・・・」
「ナルトか・・・お前まで居たのか」

あの日々から、二年半の月日が流れた。
そう、あの日々の終焉は予想されていた通りの展開を持って訪れた。
復讐を求めた“うちは一族最期の末裔”による―――里抜け。
予想されていた内の中で最悪の展開であり、最も起こりうる可能性が高かった展開だった。

裏切りがあったのしても、それでも“うちは一族最期の末裔”という存在の“有益”はあった。
里に連れ帰れば良い。それならば里抜けに対する咎として本格的な“洗脳”をおこなうことができる。
“うちは一族最期の末裔”という“人形”が完成し、木ノ葉の“有益”になる。
“有害”になる可能性は極めて高かった―――同時に“うちは一族最期の末裔”を失う事による“損害”も大きかった。

先延ばしにされた執行猶予。
そして今、全ての判決の時。

「子供のままだな・・・ナルト。
 オレにとって復讐が全てだ。復讐さえ叶えばオレがどうなろうがこの世がどうなろうが知った事じゃない。
 ハッキリ言うとだ、イタチは今のオレでも大蛇丸でも倒せない。
 だが、大蛇丸にオレの身体を差し出す事で、それを成し得る力を手に出来るなら―――――こんな命、いくらでもくれてやる」

判決は、下された。









裏切られた。“仲間”と認めたのに、裏切られた。
もう底知れない闇も血塗られた殺戮も当然だった孤独も、耐え切れないのに、
再び堕とされる。

“人形”ならば感情を持たず、こんな気持ちになることは無かった。
“独り”という概念を理解してしまった俺は、もう“独り”を当然であり自然な事と受け入れられない。

“人間”になってしまった、俺はどうすればいい?

突き放された、もう何も残らない。
全てが音をたてて崩れていく。―――元々ソレは脆い浅はかなモノだったのだ。
戻るだけだ。元々何も無かったじゃないか、俺には。

俺は“人形”。感情を持たない“操り人形”。
ただ命令の通りに動き、敵を排除する。殺す。
与えられたのは底知れない闇と血濡られた殺戮のみ。
誰も信じず、“信じる”という概念すら持たず、“孤独”という概念を持たず、
独りをあたり前とした日常。
ソレが全てで、血塗られた闇を独り動く“人形”。
故に、俺は“殺戮人形”。
不満は無い。それが当然であり自然な事だ。
感情を持たず、意思を持たず、命令のみを全てとする。

なぁサスケ、お前は“つながり”を断ち切ったと言ったよな?
ならば俺も断ち切ろう。自らのこの手で、最期の意志で“人間”としての俺を断ち切ろう。

なぁサスケ、お前は木ノ葉の里の“有害”だ。






「―――うちはサスケ、」

声色の変わった俺の声に、“うちは一族最期の末裔”は怪訝な目で俺を見た。
戸惑う“春野中忍”達を気にすることなく、俺は続ける。

「最期に問う、木ノ葉の里に戻る気はあるか?」

熱を持たない無機質な声。
淡々とした事務的な言葉。
シナリオ通りの台詞、命令通りに用意された最後の確認作業。
俺の言葉に、“うちは一族最期の末裔”は馬鹿にしたように鼻で嘲った。


「愚問だ、オレに戻る気は無い」






報告、“うちは一族最期の末裔”は里にとって“有害”な存在と断定された。
よって命令通り正式に“うちは一族最期の末裔”を“抜け忍”と扱う事とする。
任務ヲ遂行セヨ。






地面を蹴る。間合いを詰める。
懐に入り込んだ“殺戮人形”の存在を理解することなく、“抜け忍”の首は宙を舞う。
噴水のように噴出した血飛沫で濡れぬようまた地面を蹴る。
首の無い骸は力尽き、崩れるように倒れる。
転がる首を拾い上げ、用意していた袋に入れる。
“抜け忍”の首は状況を理解できず、ただ呆然としていた。
濁ったその目に光が宿る事はもう二度と無い。

骸は血溜まりを作りながらその中心に横たわっている。
“殺戮人形”は印を組み、小さく呟く。

「浄炎」

青い炎が骸を飲み込み、骸も血溜まりも消え失せた。






終わった。任務が終わった。
「旧家や名家の子息の護衛」から引き伸ばされた最終的な任務、“うちは一族最期の末裔”の“洗脳”は失敗に終わった。
だが“抜け忍”の“排除”は成功に終わった。
長い偽りの仮面をつけた日々が終わりを迎えた。

見せ付けた圧倒的な実力、感情を持たぬ冷酷さ。
全ては偽り、“ドベなうずまきナルト”も“真っ直ぐな信念を持ったライバル”も全部終わり。演技は終わり。

“人間”よ、さようなら。






「ナ、ル・・・ト・・・・・・・?」

春野中忍は呆然と声を発した。
受け入れる事は無いだろう。何故なら俺は春野中忍にとっての“仲間”を殺した裏切り者。
聡い春野中忍ならば答えに直ぐ行き着くだろう。“うずまきナルト”は全て“嘘”だと。
自分は騙されていたと気付くだろう。

「春野中忍、俺は一足先に里へ帰還する」

背を向けたまま突き放すように言うと、春野中忍は何かを言おうとしているのが空気でわかった。
予想は付く―――罵声だ。
何でサスケ君を殺したの? 何で裏切ったの? 今まで騙してたの!?
想像されうる数々の暴言も、今の状況では全て正論と変わるだろう。






それでいい。
俺は“つながり”を断ち切る事が出来る。






怒鳴られるであろう事を見越し、俺は静かに眼を閉じた。
断罪の声を願った。
手に持った袋からはいつの間にか血が滲み、紅い染みが広がる。


訪れた衝撃は、俺を絶望へと突き堕とした。


「待ってナルト!
 ・・・任務、なんでしょう? ナルトが望んだ事じゃないんでしょ?
 覚悟していた事だわ。抜け忍として断定されれば、排除される。
 今まで、サスケ君が二年半も生きてこられたことは、奇跡に近い。
 ・・・わかってる、もう子供じゃないの。
 ねぇナルト、九尾の事を知って、不審に思っていたの。
 ナルト、今までの“ドベなうずまきナルト”は演技だったんでしょ? 自分の身を護る為の、自己防衛だったんでしょ?
 今までの一緒に過ごしたナルトが“嘘”だって、今までは気が付かなかったけど、
 でも、これだけはわかるの。ナルト―――」


優しく微笑みながら、涙を流しながら、言葉を紡ぐ。






「ナルトはナルト、でしょ?」












どうせなら口汚く罵って欲しかった!!

もう闇にも殺戮にも孤独にも耐え切れないんだ。
でも裏切られて、闇に殺戮に孤独に堕とされたんだ。
だから昔みたいに感情を持たない“人形”に戻ろうとしたんだ。
闇も殺戮も孤独も心地良いと感じる“人形”に戻りたかったんだ。
なのに、なのに、なのに!
やめてくれ! 優しい言霊で俺を繋げないでくれ!
希望を与えないでくれ、そんな優しい言葉、俺にとって、



残酷な裏切りだ!!!



俺を“人間”にしないでくれ!







+++++あとがき++++++++++
支離破滅。
意味不明駄文。
今までとは違った擦ナル。木ノ葉の上層部に強くさせられたナルト。
白羽の頭の中では基本「生き残りたいから強くなった」「護りたいから強くなった」「ただ強くなっただけ」なので。
七班と擦ナルの話、サスナルでもナルサクでもありません。
ヤマトとサイと大蛇丸のカブトはいつの間にか消えてました。
08/04/12 夜烏白羽

   ◎書物へ戻る