※原作展開完全無視注意※ 「・・・・・なぁ、本当に行くのか?」 金色の髪を揺らしながら、男の子は言った。 真っ赤な服を着た少年は答えた。 「この里は狭すぎる」 そう言って手に持つクナイを軽く振った。 クナイにこびり付いた血が、軽く宙を舞う。 赤い色が宙を舞う。 少年の真っ赤な色は、全て返り血だった。 振り払われた赤い血が血濡れた地面に落ちるのを、男の子は不快そうに眺める。 少年は続けた。 「忍にとって里は“世界”だ。里という“世界”に生まれ生きて死ぬ。忍が忍である以上、里という“世界”を抜ける事は出来ない」 男の子は何も言わない。 少年は続ける。 「だが、俺はそんな小さな“世界”に留まるつもりは毛頭ない。こんな下らない“世界”など俺に必要ない。俺は里を抜けた先の大きな“世界”で生きる」 「里を抜けた先の“世界”も下らないかもしれない」 「かもしれないね。でも違うかもしれないじゃないか」 小さく呟いた男の子の言葉を、少年は優しく切り捨てる。 男の子は少年に目を合わせようとしなかった。 それでも少年は男の子に微笑みかけた。 「下らなかったらそれもまた一興、大きな“世界”が見れただけ良しとするさ」 楽しそうに笑う少年。 男の子は笑わない。 ただ理解できないと眉を顰めるだけだった。 「君は行かないのかい?」 「行かない」 男の子は差し出された手を叩き落す。拒絶する。 それでも少年は楽しそうに笑った。 「怖いのかい?」 「怖くない」 「本当に?」 「・・・何が言いたいんだ」 男の子は目を合わせたくなくて足元の血溜まりに映った自分を見つめた。 小さな音を立てて血溜まりに波紋が広がる。 少年が一歩一歩、男の子に近づいていっていた。 「怖くなんか無いさ、反吐が出る」 男の子は言った。 それは本当のことだった。 男の子は知っている。未知より怖い無知を。 “知らない”が故の悪意を、敵意を、害意を、殺意を、知っている。 “わからない”より怖い“知らない”人々の嫌悪を、憎悪を知っている。 未知より怖い無知を知っている。 だから男の子は怖くなかった。 それは本当のことだった。 「違うだろう、君は怖いんだ」 尚も、少年は言う。 「違う」 男の子も言う。 「違う、怖いんだ」 「違う、怖くない」 「怖がっているんだよ、君は」 「俺は怖がってない」 「違うだろう?」 「違くはない、怖くない」 「違うさ、怖いんだよ」 「何故そこまで言い張る。俺が何を怖がっているっていうんだ」 「簡単な事だ」 「答えろ」 「君は、人を殺すのが怖いんだ」 ―――何を言っている? それが男の子の純粋な疑問だった。 今更だった、そんなこと。 目の前に広がる真っ赤な色の血よりも沢山の血を、浴びて被って流して濡れた。 今更、もう人殺しなど怖くは無い。 それは感覚が慣れてしまったのか。 それとも狂ってしまったのか、壊れてしまったのか。 忍に生まれた以上、人殺しは必然。 里という“世界”の中で、当たり前の日常。 反論したかった。 反論しようとした。 でも男の子が口を開く前に、少年が口を開いた。 「人を殺しても“当たり前の日常”である里という“世界”を抜けて、自分がただの“人殺し”に成り下がってしまうのが怖かったんだ」 それは、大きな衝撃だった。 雷に打たれたような、鉄鎚で殴られたような、そんな衝撃だった。 予想もしなかったことだった。考え付きもしなかった恐怖だった。 でも、それは無意識に怖れていたことだった。 里という“世界”の中で、忍は人殺しが必然だった。 それはある種の免罪符で、“忍”だから、だから赦された。 赦される赦されない以前に、当たり前のことだった。 任務だから、命令だから、しょうがない。 “人殺し”でもしょうがない。自分は“忍”なのだから。 そう言い訳して赦されていた。 誤魔化されていた。 だがそれは、里という小さな“世界”での話。 里を抜けた先、大きな“世界”の中で、そんな言い訳は通用しない。 里を抜けた時点で抜け忍となる。 抜け忍は忍であって忍でない。否、忍ではない。 ただの、“人殺し”だ。 否定したかった。 さっきのように違うと言い張って、拒絶したかった。 堂々と、真っ向から反論したかった。 主張したかった。 男の子は顔を上げた。 堂々と、主張する為に。 怖くない、そう言い張る為に。 顔を上げた。 覗き込むようにして微笑みかける、少年と目が合った。 そして――― 「違う」と叫びたかった! だけど、少年の瞳を見て、全て受け入れてしまった。 自分の中の恐怖を知ってしまった。 あの、真っ赤な色の、返り血ではない赤い紅い色の瞳を見て、叫びは掻き消されてしまった。 「君は怖いんだよ、ナルト君」 そう言って笑う少年に、男の子は何も言えなかった。 +++++あとがき++++++++++08/06/10 夜烏白羽 ◎書物へ戻る |