貴方はたくさん、
俺に教えてくれた。
この世界で、俺が生きていく為の力を、
その術を、
教えてくれた。
この俺に、たくさんくれた。
毎日毎日、
負の感情のみを与えられ続け、人形のようになっていた俺に、
たくさんたくさん、いろんなものをくれた。
嬉しい、
楽しい、
愛しい、
そして、
哀しい・・・。
月 夜
闇が支配する時間、
一人の少年が闇を駆け抜けていた。
少年が片手を動かす。
舞う、紅。
木霊する叫び声。
声が止んだ時には、
もう、
少年しか立っていなかった。
少年を取り囲むように転がる頭と体、
一面の、血の海。
「浄炎。」
炎が立ち上ぼり、少年の周りを照らす。
炎により浮かび上がる少年の姿は、
今にも消えそうなほど、
儚かった。
細く白い腕が黒い外套の中から伸びる。
黒いフードで髪を隠し、
顔も白い狐面で隠していた。
少しも返り血を浴びていないその姿から、少年の実力がうかがえる。
いつの間にか炎が消え、
転がる頭と体も、
一面の血の海も、
消えていた。
少年は静かに月を見上げる。
その拍子に、黒いフードが僅かにずれ、
そして少年の髪が隙間からこぼれた。
眩しい、月が堕ちてきたと錯覚するような美しい、金色。
「―――早、く・・・。」
少年が呟いた声は、
とても小さく、
少し、震えていた。
月に向かって手を伸ばす。
「兄・・・ちゃ、ん。」
小さい声で、囁く。
愛しそうに、
哀しそうに。
―――兄ちゃん・・・。
貴方は俺を、まだ覚えていますか?
俺は貴方を忘れたことなんかありません。
貴方のことだけを想い、それを糧に生きてきました。
この暗闇の中、
それだけを頼りに、正気を保ってきました。
―――でも、
想い出してしまうのです。
こんな綺麗な月を見ると、
貴方のことを。
あの日、
貴方の言葉、
小さな、
でも俺にとっては、
とっても大きな『約束』。
「早く、来て・・・。」
五年前、今日みたいな綺麗な月の日。
血まみれの兄ちゃん。
「―――・・・・・え・・・?」
俺は兄ちゃんの言ったことが理解できなかった。
「ヤダッ・・・何、で?・・・・・ヤダ、嫌だッッ!!!」
そう叫んで、兄ちゃんにしがみついた。
離さない様に。
「置いてかないで、俺も一緒に行く!」
―――でも、
兄ちゃんは皮肉にも首を横に振った。
今は自分に俺を護りきる力がない、
だから連れて行けない。
・・・そう、言った。
嫌々と、
首を振って服を離さない俺を見て、
兄ちゃんは悲しそうに笑った。
そして、小さく俺の名を呼んで、
俺の唇に、自分の唇を被せた。
初めての、キス。
今までおでことか瞼とか頬とかはあったけど、
唇は、初めてだった。
呆然とする俺の頬を愛しそうに撫でる。
ソレが酷く気持ちよくて、
酷く怖かった。
このまま、一生逢えない気がして・・・。
そのまま兄ちゃんは俺を抱きしめる。
俺は成すがまま、兄ちゃんの腕の中にいた。
「置いて、かない・・・で・・・・・。」
もう一度、小さく呟く。
―――兄ちゃんがいなくなったら、
俺は・・・・・。
兄ちゃんは俺の耳元で囁いた。
そして、
俺の記憶はそこで途切れた―――・・・。
それから、
気が付くと、俺はじっちゃんの家の前に寝かされていたらしい。
俺はその後暗部に身を置き、
その『約束』だけを糧に生きてきた。
アカデミーに護衛任務で入学しても、
表で友達を作っても、
仲間を作っても、
満たされることのない、心の穴。
ぽっかりと空いた、大きな穴。
『必ず、君の居場所を創って、
迎えに来る。
―――愛してる、ナルト君・・・。』
「イタチ、兄ちゃん―――・・・・・。」
俺も貴方だけを、
貴方だけを想って、
貴方だけを愛しています。
―――だから、
早く、
「迎えに来て・・・。」
俺 が 正 気 を 失 わ な い う ち に ・ ・ ・ 。
月夜、
貴方を想い、涙を流す。
+++++あとがき++++++++++
イタナル。名前が出てないけどナルトなんです。
弱いナルト、依存が強いナルト、儚いナルトを目指しました。
・・・イタチなんか偽者ですね。
ってかイタチ殆ど喋ってなねぇし。07/07/31 夜烏 白羽