風の音が、

木々がざわめく音が、




聞こえる。







遠く、

喜び唄う里人の声が、




聞こえる。




























少年はそこに立っていた。

いつもは結わいている黒髪も今は無気力に下ろされ、

力なく風に揺れる。




その髪は影となり、

少年の表情はわからなかった。




少年の前には―――小さな石。




飾り気の無ければ名も無い、粗末な墓石だった。

添えられたのは、血に染まった紅い狐面。

元は白なのだろうか?

紅の間から白い色が顔を出している。







「なーにやってんだよ、めんどくせー。」







少年―――シカマルは、ぽつりと呟いた。










 +++++










「なぁ、何でナルトは火影になりたいんだ?」




その日、俺達はいつものように暗部任務を終え、禁忌の森の中にある隠れ家にいた。

先に風呂に入って血を落として出てきた俺は、未だに返り血がこびり付いたままのナルトに聞いた。




「・・・はぁ!?」




俺の質問に、ナルトは思いっきり顔をしかめた。

面に付いた血を嫌そうに眺めていたナルトは、面から視線を外し俺を睨みつける。




「いや、だから火影だっつってんだろ。」




俺はその視線を気にせず言う。

するとナルトは呆れたようにため息をついた。




「馬ー鹿、あれは『表用』だっての!」

「うっせー超馬鹿。何年一緒にいると思ってんだ。」




めんどくせー事言ってんじゃねぇよ、と一蹴すると、

ナルトはニッコリと笑った。




「さっすがシカ!愛してるよ〜。」

「俺も愛してる。てか話はぐらかすなっつうの。」




軽く額を小突くと、ナルトはバツが悪そうに思いっきり舌打ちをした。

オイ、と俺が急かすと、ナルトは両手を上げ「降参降参。」と何処か楽しげに笑った。




「まいったね、やっぱ俺のシカは凄いや。」




そう言って手に持っていた白い面を机の上に置いた。







「そ、火影は俺の夢。

 俺の人生を賭けた復讐だ。」







コト、と面を置く音がやけに響いて聞こえる。




出てきた物騒な言葉に、俺は眉をひそめた。

ナルトは楽しそうに続ける。







「俺を殺そうとして、俺を認めようとしない里。

 ・・・それを俺が生かして、命を賭けて護るんだ。

 護って護って護って、嫌でも俺を認めざるえないようにする。」







ナルトは窓の外を見上げた。

窓の外には漆黒色の空が広がっており、

その中に転々と星たちが瞬いていた。













「そして里の頂点に君臨して、

 里の天辺から見下して、嘲笑ってやるんだ。

 『どうだ、自分たちが認めなかったガキに護られる気分は』ってな!



 ・・・俺にしちゃ、随分平和的だろ?」













そう言って、ニヤリと笑うナルトに、

俺はめんどくせーぐらいタチ悪いなって笑い返してやった。










 +++++










「―――・・・なのに、何で死んでんだよ。」







風の音が、

木々のざわめく音が、










「火影になるんじゃなかったのかよ・・・、」










遠く、










「復讐すんじゃなかったのかよ!」










一人の少年の、

 死 を、










「皆々、お前が死んで喜んでんぞ。」










喜び、

唄う里人の声が、

歓喜の唄が、










「・・・泣いてんの、サクラ達ぐらいだったぞ。」










耳障りの程に、










「 俺は絶対に泣いてやんないからな!!! 」










聞こえる。







シカマルは叫ぶ。

全てを吐き出すかのように、

シカマルしか知らない、愛しき金色の神子が眠る場所で、

叫ぶ。




荒くなった息を静めようと、シカマルは強く唇を噛んだ。

血がにじみ、紅く染まる。




「・・・俺は、お前を、」




シカマルは小さな石に向かって、

言った。

















「追って逝くなんて、そんなめんどくせー事しないからな。」

















風が吹き、




 ナルトはそんなの望まねぇだろうから。 




シカマルの呟きは、風にかき消された。





















―――嗚呼・・・、













耳障りな風の音
涙は流さない、君はもういないのだから。

 



















 

+++++あとがき++++++++++
死ネタ。思いっきり死ネタ。
きっとシカマルは、この後ナルトの意思を継いで火影になると思う。
シカマルは誰よりもナルトを愛して、ナルトを理解していました。
だからこそ、ナルトが自分の生を望んでいると知っているのです。
涙を流さないのは、一回流せばもう自分を制御できないとわかっているから。
涙を流せば、ナルトを求めて自分が死んでしまうとわかっているからです。
・・・白羽の書くシカナルってなんか暗くなりませんか?

07/09/25 夜烏 白羽

 

 

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