『炎』。




その名は、うちは一族の嫡子が代々受け継ぐ暗部名だった。




だが―――。













「待ってくれ!」




ナルトの手が最後の印を組もうとした時、イタチは叫んだ。





















































































「・・・どうしたの。」




怪訝な顔で、ナルトはイタチを見つめる。

イタチはナルトに歩み寄った。







「気が変わった。ナルト君、君の『監視兼護衛』受けるよ。」







そう言って、ナルトの頭を撫でた。




「・・・・・・・・はぁ?」




ナルトは素っ頓狂な声をあげる。

そしてイタチの手を払い除け距離を取った。




「い、いいのかよ。一族通さなくて。」

「火影様がいいと仰っていた。」




イタチは綺麗に微笑む。







「君は言った。俺は一族に納まらないと。

 なら、俺は一族に刃向かうよ。」







そして、静かに片膝を付いた。










「うちはイタチ、『炎』は、

 うずまきナルトに忠誠を誓い、

 君の駒になりましょう。」













真っすぐ、迷い無くイタチは言った。

それに、ナルトは慌てた。




「何言ってんだ!俺は『器』だぞ!!

 いくら一族の駒が嫌だからって、何も器の駒にならなくても 「いえ。」




イタチはナルトを遮る。










「ナルト君、君はまだ自分を知らないんです。

 君は独りじゃない。

 やがて、全てを統べることの出来る器です。

 ・・・それに、」




イタチはそこで一端きり、ナルトを真っすぐ見つける。







「俺は『一族の駒が嫌だから』君の駒になるのではありません。

 『君の駒になりたいから』君の駒になるのです。」





































『炎』。

その名は、うちは一族の嫡子が代々受け継ぐ暗部名だった。




火を操る一族の要。




そう銘打っても、それは『一族の駒の証』でしかない。

『一族に縛り付けられる鎖』でしかない。




だが、君は言った。










『押し隠そうとしてる、強い意志の炎。』




『あんたは一族に納まらないし、一族だってアンタを扱えはしないよ。きっと。

 だってあんたはそんなもん全部飲み込んじゃう炎を持ってる。』







鎖でしかないその名前が、とても意味のあるものになった。




君のお陰で、世界が一瞬にして色づき、開花した。







・・・一族から、羽ばたける気がした。





































「わからないのなら、俺が教えます。

 自分を過小評価しないで下さい。」







イタチの言葉に、ナルトは戸惑う。

・・・やがて、ナルトは顔をそらし、言った。










「・・・敬語は止めろ。それなら許す。」







耳の赤いナルトに、イタチは小さく笑った。










   +++++










火影執務室、




そこに、イタチと火影がいた。







「・・・・・本当に、これでいいんじゃな?」




火影はイタチに面を渡す。




「・・・はい、勿論。」




イタチの手には、狐の面。

真っ二つに割れてしまった寅面の代わりに、イタチが火影に頼んで用意してもらったものだ。




「俺は今、弟がもう一人出来たようで嬉しいんです。」




滅多に笑顔を浮かべることの無い少年の、嬉しそうな笑顔に、火影は目を見開く。




「一族にはこの面は内緒にしますので、宜しいですよね?」

「・・・ああ。」




火影は嬉しそうに微笑む。







イタチが出て行った後、火影は天井に呼びかけた。




「・・・ナルト、イタチはどうじゃった?」




すると、音も無く小さな影が降りてくる。




「狸ジジイめ。」




今はナルトの憎まれ口さえも、微笑ましく感じる。

バツの悪そうなナルトは、イタチが退室した扉を眺めた。







「・・・・・・お兄ちゃんって、あんな感じかな?」







小さく、ナルトがポツリと呟いた。





















その後、イタチのことを『イタ兄』と呼ぶナルトが見られたという―――。

















守護神を照らす、強き意思を持った炎。

















+++++あとがき++++++++++
炎改めイタチ編、完結。
ちなみにこの二人に恋愛感情はありません。
兄弟として、仲間としての感情です。

07/08/10 夜烏 白羽

 

 

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