『炎』。
その名は、うちは一族の嫡子が代々受け継ぐ暗部名だった。
だが―――。
「待ってくれ!」
ナルトの手が最後の印を組もうとした時、イタチは叫んだ。
炎3
「・・・どうしたの。」
怪訝な顔で、ナルトはイタチを見つめる。
イタチはナルトに歩み寄った。
「気が変わった。ナルト君、君の『監視兼護衛』受けるよ。」
そう言って、ナルトの頭を撫でた。
「・・・・・・・・はぁ?」
ナルトは素っ頓狂な声をあげる。
そしてイタチの手を払い除け距離を取った。
「い、いいのかよ。一族通さなくて。」
「火影様がいいと仰っていた。」
イタチは綺麗に微笑む。
「君は言った。俺は一族に納まらないと。
なら、俺は一族に刃向かうよ。」
そして、静かに片膝を付いた。
「うちはイタチ、『炎』は、
うずまきナルトに忠誠を誓い、
君の駒になりましょう。」
真っすぐ、迷い無くイタチは言った。
それに、ナルトは慌てた。
「何言ってんだ!俺は『器』だぞ!!
いくら一族の駒が嫌だからって、何も器の駒にならなくても 「いえ。」
イタチはナルトを遮る。
「ナルト君、君はまだ自分を知らないんです。
君は独りじゃない。
やがて、全てを統べることの出来る器です。
・・・それに、」
イタチはそこで一端きり、ナルトを真っすぐ見つける。
「俺は『一族の駒が嫌だから』君の駒になるのではありません。
『君の駒になりたいから』君の駒になるのです。」
『炎』。
その名は、うちは一族の嫡子が代々受け継ぐ暗部名だった。
火を操る一族の要。
そう銘打っても、それは『一族の駒の証』でしかない。
『一族に縛り付けられる鎖』でしかない。
だが、君は言った。
『押し隠そうとしてる、強い意志の炎。』
『あんたは一族に納まらないし、一族だってアンタを扱えはしないよ。きっと。
だってあんたはそんなもん全部飲み込んじゃう炎を持ってる。』
鎖でしかないその名前が、とても意味のあるものになった。
君のお陰で、世界が一瞬にして色づき、開花した。
・・・一族から、羽ばたける気がした。
「わからないのなら、俺が教えます。
自分を過小評価しないで下さい。」
イタチの言葉に、ナルトは戸惑う。
・・・やがて、ナルトは顔をそらし、言った。
「・・・敬語は止めろ。それなら許す。」
耳の赤いナルトに、イタチは小さく笑った。
+++++
火影執務室、
そこに、イタチと火影がいた。
「・・・・・本当に、これでいいんじゃな?」
火影はイタチに面を渡す。
「・・・はい、勿論。」
イタチの手には、狐の面。
真っ二つに割れてしまった寅面の代わりに、イタチが火影に頼んで用意してもらったものだ。
「俺は今、弟がもう一人出来たようで嬉しいんです。」
滅多に笑顔を浮かべることの無い少年の、嬉しそうな笑顔に、火影は目を見開く。
「一族にはこの面は内緒にしますので、宜しいですよね?」
「・・・ああ。」
火影は嬉しそうに微笑む。
イタチが出て行った後、火影は天井に呼びかけた。
「・・・ナルト、イタチはどうじゃった?」
すると、音も無く小さな影が降りてくる。
「狸ジジイめ。」
今はナルトの憎まれ口さえも、微笑ましく感じる。
バツの悪そうなナルトは、イタチが退室した扉を眺めた。
「・・・・・・お兄ちゃんって、あんな感じかな?」
小さく、ナルトがポツリと呟いた。
その後、イタチのことを『イタ兄』と呼ぶナルトが見られたという―――。
守護神を照らす、強き意思を持った炎。
+++++あとがき++++++++++
炎改めイタチ編、完結。
ちなみにこの二人に恋愛感情はありません。
兄弟として、仲間としての感情です。07/08/10 夜烏 白羽